「入試まであと○日!」
カウントダウンの掲示が、あっという間に1桁。ここまで頑張ってきた。必死で勉強してきた。しっかり準備してきた。それでも、想定外の出来事が起こるかもしれない。
私立高校の入試日、校門前で
「先生!これMくんのカバン」
生徒のうち2人が、カバンを私に渡す。
「は!?で、Mくんは?」
「行方不明!」
「え~~~っ!?」
カバンだけが来て、受験する生徒が来ない!
聞けば…駅で待ち合わせた3人。電車に乗ってすぐにMくんはベンチに財布を置いたままだったことに気付き、電車を降りたその瞬間…電車の扉が閉まって電車は出発。カバンは電車の中。友だち2人がカバンを持って梅田駅でMくんを待っていたが現れず、仕方なくカバンだけを持って受験校に向かったという。
「もう、先に行っておきなさい」2人を教室に行かせた。家の連絡先もわからない。どうすることもできない。ヤキモキしながら待っていると、集合時間の2分前、走ってくるMくんの姿が!
「先生、僕、カバンないけど、受験できるかな?」(何をのんきな…。)
「ほい、カバン。とりあえず急げ!」
「あ、カバン、よかった!じゃあ、受けてくるわ~」
だらだらせず、いつも背中から湯気を出しながら自習しているくらいの真面目なMくんがこんなことを起こすなんて、ちょっとドキドキでした。その後、Mくんは公立トップ高校から、現役で某国立大学に進学。笑い話で済んでよかった!
また別の年、入試の日の校門前で
いつもニコニコ、笑顔で一生懸命な女子生徒のTさん。
それが緊張で取り乱し、泣きながらやってきた。
「おはよう!」
「先生、アカン!私絶対に落ちる!わ~~~ん!」
「おいおい、大丈夫だって。」
「いや、絶対に落ちる~~!」
泣き止まないどころか、泣き叫びがさらに増す。しゃがみ込んで動かない。
友だちからも、私からも何度励ましても変わらない。
そこで先生がとった作戦は…
「はい、もう泣くだけ泣け。はいハンカチ」
「ありがとう」と、ハンカチを顔に当てるTさん。
「あ、それ、さっきトイレで便器に落としたハンカチだった、すまん!」
「え、何!?汚い!顔洗ってくる!もう、先生ひどい!トイレはどこ?」
ようやく泣き止んだ。私の策は「怒らせても、とりあえず泣き止ませる」
「トイレは学校の中しかないよ。」
「もう!行ってくる!」
結果、無事合格。よくまあ怒らせる策を思いついたもんだ。これも笑い話。
いくらきっちりした性格の生徒でも、どれくらい真面目に準備したとしても、予想しない何かが起こるかもしれない。
でも、そのとき、そのときを一生懸命やっていれば、必ずよい結果を生む。
とんでもないトラブルがあったとしても、笑い話に変えることができる。
1つのトラブルで、ここまで頑張ってきたことが台無しになるなんてことは、実はない。
カバンが無かろうが、涙がでようが、受験しようと思って高校に向かうことが大切。
とんでもないことが起こっても、前に進もう!最後には、笑い話になるんだよ。